book_icon02.jpg 本を本で読む 991012
coverimage 『出版社と書店はいかにして消えていくか』

小田光雄 著  ぱる出版 1,800円
 これは破産の危機に瀕した出版・書店業界の決算報告書だ。その報告書は、二本の太い軸からなっている。
 まず一つめの軸が<現状の分析>。出版物販売データから大手書店の増床資料、書店経営指標の推移など実に細かいデータ―を駆使しつつ、この業界の危機を浮き彫りにしていく。
 二つめの軸は、<歴史的経緯>。出版流通のシステムが、明治以来どのように移り変わってきたのかが手際良くまとめられ、そこからも現在の陥った状況が照らし出される。

 二つの軸から明らかになること。それは儲けが少ないかわりに売れなかったものは返品が認められる小売と、自分で定価がつけられ、しかも新刊は自動的に小売にばら撒かれるという製造業――ある意味で、ひどくいびつな形態を作った<再販価格維持制度>が、バブル崩壊後に制度疲労を起こしているということだ。さらに購買者が増えないままに書店が出店競争に突入し、共食いを続けたうえに売上を下落させ、支払いが滞り、返品し、業界の中で資金がまともにまわらなくなった悪夢のような状況……
 ここの部分における状況分析の鮮やかさは見事の一言だろう。出版の<いま>を知るという意味では、これほどうってつけの本は他にちょっと浮かばない。
 しかし同時に、<本>というかたちでこの業界を分析・批判するときに避けては通れないタブー、そして遠慮の問題がこの本の切れ味を鈍くもしている。
 図らずもこの本の中で、経済誌は出版業界自身の特集になると突然記事が甘くなると批判しているが、その批判がそのまま本書に返ってしまうのだ。例えば本書のタイトル、『書店と出版社はいかに……』の中に、入っていなくてはおかしい<取次ぎ>が抜けている(取次ぎは、『噂の真相』でも批判できないと自ら言うほどのタブーになっている)。また、書店出店競争の原因を指摘する際、郊外型書店の出店という面しか挙げていない(出店競争の最も肝心な点の一つである各大手ナショナルチェーンの戦略やその失敗など全く触れられていない)など、それはいくつも指摘できる。いや、この手の本ではそれでもよく切り込んだ方と言うべきかもしれない。
 問題とすべきは、現状を分析した上で、次にどうするかが触れられていないことなのかもしれない。いや、そればかりか《その本を読んでよい本を出していた出版社があったんだと思われれば、それでよいのかもしれません》などという単なる愚痴に近いペシミスティックな発言まであって、結局、現状追認という役割しか負えない決算報告書の限界があらわにもなっている。

 本書には触れられていないが、実はすでに97年の段階で朝日新聞の記者が、<書店の出店はバブルか?>という慧眼の記事を書き、業界の先行きに警鐘を鳴らしている。これを受けた某書店チェーンの社長が「うちは出店し続けてバブルを生き残るぞ」と発言、失笑をかったというエッセーを書いていた出版営業マンもいた。来るべき事態を予測し、次の一手を模索していた業界人は確かにいるのだ。そういう人たちの発言こそ、<本>として今この業界には最も必要なものなのかもしれない。
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文:守屋淳(もりや あつし)
 書店勤務を経て、現在は翻訳(共訳に『全訳 武経七書』プレジデント社)・書評などの著述業。『[本]のメルマガ』編集人。
同メルマガのホームページは、http://www.freepage.total.co.jp/anjienji/index.html
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