book_icon02.jpg 今月のテーマ書評 02/01/22

今月のテーマ

“おいしく食べる”

 
大島みどりの選んだ3冊
 『食生活の歴史』 瀬川清子
 『パンが残ったら……』 上野万梨子
 『骨董の器でいただきます』 森田直監修
山崎元子の選んだ3冊
 『ひと月9000円の快適食生活』 魚柄仁之助
 『サイエンス食生活考』 成瀬宇平
 『さとなおの自腹で満足!』 さとなお
塩屋光一の選んだ3冊
 『どん底の毎日ごはん』 花井愛子
 『孤独のグルメ』 久住昌之×谷口ジロー
 『悦楽の野外料理』 西川治


生きるために食べるのか、食べるために生きるのか? どちらにしたって、おいしく食べるに越したことないですね。

― 大島みどりの選んだ3冊 ―

 私ってば、かなり食いしん坊だ。おいしいものを食べることに熱意がある。でも最近はデパ地下グルメに走りがち。いかんなー。だって、魅力的なメニューに惹かれてサラサラと千円札が飛んでいくんだもの。企業戦略にはまりまくってる。
 外食産業より中食産業の時代だな。食にまつわる行動に自分を投入しないとゆーか、記号を消費しているとゆーか。要は自分の手や頭を使って食事することの価値が、めちゃめちゃ落ちている。かといって食品メーカーが「スローフード」とか標榜する風潮はカンにさわる。外来語じゃなきゃ説得力がないわけ?
 おっと、こんなことでイライラしては「おいしく食べる」の正反対。
 『食生活の歴史』(瀬川清子、講談社学術文庫、1000円)。私の手元にあるのは新版で昭和43年発行、栃折久美子さん装幀の講談社名著シリーズ。今は珍しいフランス装だ。これは私のお宝本。絶版と思っていたが、最近学術文庫で発刊されたので、声を大にして言おう。
 この本は泣けます。
 柳田國男の弟子である民俗学者の著者が、日本中を歩いて調査した庶民の食生活である。日本人はなにをどう食べていたのか――主食、副食、調味料、食器具、祝いの食など広範囲に記してある。
 といっても堅苦しい本ではなく、フィールドワークの土地土地での人との出会いや、風物の叙述がいかにもきめ細やかで、すぐれたエッセーを読んでいるようでもある。それにつけてもいかに食生活と、食にこめられた心のありようが変遷してきたものか。
 本書旧版の昭和32年当時の70、80代の年寄り達への聞き書きでは、東京都杉並区ですら主食は白米ではなかった。「主食は稗と麦で米は少し入れるだけであったが稗は甘みがあってうまい。稗を使わなくなってから四十年になるが、それからは麦七米三の飯で、あそこの家は半々だというと、ぜいたくだと思ったものだ。(杉並区永福寺 八十一翁)」。日本人であればずっと米を食べてきたというのは、思いこみであることが分かる。
 昭和10年頃千葉県のとある山村では普段の調味料は味噌一辺倒で、正月料理にしょうゆを使うのは主婦の家族の願いであった。師走の街道、よこなぐりに吹きつける粉雪の中、荷物を背に、しょうゆの小さな樽を首のねっこに載せて急ぐ女たち。……泣ける(のは私だけ?)。
 副菜にしろ調味料にしろ、今の目から見るときわめて貧しい。が、食は家族なり地域コミュニティを維持する機能を果たしていた。そして行事や祭りの節目においては、人生を彩る喜びに満ちていた。しかし著者は昔の価値観をおしつけるわけではない。縁側でおばあちゃんの昔話を聞いているようでもある。貧しいなかの温かさ豊かさが消えゆくことへの、小さなため息も聞こえてくる本だ。

 ところで、残り物を工夫して食べるのは、究極の家庭の味だと思う。『パンが残ったら……』(上野万梨子著 レスパース編 文化出版局刊)は、残って乾燥しかけたようなパンを材料に料理やお菓子を作るレシピ集。
 貧乏くさいなんて言わないで。お洒落なんだから。この本があればひとり暮らしでも安心して、そして楽しみに大きなパンが買える。
 著者はパリで料理修業をした方で、レシピはフランス家庭料理のおもむき。「田舎風パンのパテ」「プロヴァンス風冷たいパンのスープ」「パン・ペルデュ(いわゆるフレンチトーストのこと)」などなど。パンを使っているだけに腹持ちが良さそうだ。血肉になる料理。写真を見ているだけでも幸せ。でも、こういう味って女性の方が好きそうな気がする。なんとなく。

 さて、おいしく食べるには器も肝心。『淡交ムック 和の骨董シリーズ1 骨董の器でいただきます』(森田直監修、淡交社刊)は、骨董の食器類の見どころやコーディネートが分かるビギナー向けビジュアル本。
 ビギナー向けなので、あまり高い骨董はないという。普段使いできるもの。だけどやっぱり骨董となるとお高い。だからこういう本を見て「この器はアイスクリームなんかもいいよね。リキュールもかけて大人の味で」なんて考えてみるのが予習になるし、なんといっても楽しみだ。
 近年は古伊万里の印判など、高くなりすぎていると思わないでもないが、やっぱり古いものはいい。しっとりした気分になる。ちなみに私はもう皿一枚たりとも増やさない決意なので、こんな本は心の慰め
(大島みどり) 戻る ↑

― 山崎元子の選んだ3冊 ―

 元々、「食べる」ことは好きだけれど、「料理」はちょっと苦手だった私。だけど毎日、好きなメニューを美味しく食べられるならば頑張ろう! と自炊を始めてみると、これが結構、外食するよりも美味な料理ができるようになったのです。恐るべし、人間の食欲よ。そうなると、これまで何にも気にせず食べていた料理も、ちょっと食材や調理法を工夫するだけで、案外簡単に美味しくなったりするんだなぁ、ということをあらためて知ったのです。料理って、楽しいな〜なんて調子乗って作っていて、「ハタ」と気付いた。単身の身をいいことに、家族に気がねなく毎日好きなメニューを作って食べたいだけ食べているとエンゲル係数が高くなってしまう。それに、ハイカロリー料理に片寄ってしまい体重も比例する。これじゃあ、いかん! 経済的、かつ健康にいい料理というのを見直さなくては…ということで、今回のテーマ書評に選んだ書物は、全て経験と実績に裏付けされた「ためになり、身体によく、そして美味しい」本ばかりです。

 『ひと月9000円の快適食生活』(魚柄仁之助、飛鳥新社、1500円)に聞き覚えのある人は多いはず。そう、一世を風靡したあの本です。当時はブーム本には見向きもしなかった私。しかし、最近、良いレシピ本はないかと探していた時に初めて読んだら、予想以上に実用的で楽しくて感心した。レシピは難しいテクニックや道具は必要なし。レシピといっても具体的な計量表示はなく「どばーっと」や「ざーっと」といったアバウトな書き方だから、初心者は戸惑ってしまうかもしれない。でも、却ってこの表現のお陰で、自分の腕で美味しい味を見つけていく楽しさが味わえるのだ。素材も乾物や野菜が中心だから、ヘルシーで経済的。残った刺身やパンの耳、野菜の皮などうっかり捨ててしまいがちな食材も簡単なひと手間で立派な一品に早変わり。だけど、これがわりと食べ応えある料理で、「粗食」って感じがしない。保存食・常備食の作り方や料理時間の工夫なんて主婦にも役立つ情報も満載だし、良い素材を使うことの大切さ、日本で古くから食されている食材の大切さも書かれている充実の1冊です。

 さて、素材について良く知るともっと美味しく味わえることを学んだ私が、さらに勉強しようと手にしたのが『サイエンス食生活考』(成瀬宇平著・丸善ライブラリー・700円)。健康法や著者の個人趣味による「食生活本」でなく、栄養学的表現も入った本だから、ちょっと聞き慣れない言葉もあるけれど、身近な食生活ばかりをテーマにしているから抵抗なく読み進められる。食物が身体に与える影響と、どうやって調理すれば栄養を身体にうまく取り入れられるのか、知っているといないでやっぱり大きいもの。
 自分でご飯を作るのをたまには休んで、外で美味しい物でも…なんて時に役立つのが『さとなおの自腹で満足!』(さとなお著・コスモの本・1600円+税)。朝日新聞で連載していたコラムにインターネットのホームページでも掲載している同企画の記事を加えた1冊。店の雰囲気や店員とのやりとり、メニューについて、そして料理の味に対する忌憚ない評価。フランス料理の店はサービスやワインの数・種類も調べる徹底ぶり。グルメライターが雑誌に載せるありきたりな褒め言葉では味わえない、自腹で食べてこそ書ける文を読むだけで、行ったことのない店のイメージがリアルに浮かぶから不思議。掲載されているお店もジャンルやグレードに関わらず多種多彩なので、コラム本でありながらガイドブック的役割も果たしてくれる読み応えと実用価値の高い本です。ただし、この本、関西限定なので、悪しからず。
(山崎元子) 戻る ↑

― 塩屋光一の選んだ3冊 ―


 食べ物をテーマにした読み物は、それを食べてみたいとか、作ってみたい、と思わせるもの。そして、食べる状況をしみじみと感じさせるものでないと。
 『どん底の毎日ごはん』(花井愛子、芳賀書店、1200円)は著者の貧乏な暮らしと、食と生活について語ったもの。作家花井愛子は、父親の遺産相続トラブルとバブル景気の崩壊で、自宅は人手に渡って追い立てをくらってしまう。じつに3億円を越えるお金を失ったのである。人間は本当に苦境に落ちると、食欲すらわかなくなる。とにかくエネルギーということで、ビールだけで生きてたこともある。が、あるときにビールを受け付けるならば、ご飯だって食べられるだろう、と自炊を始めた。
 自炊をする最大の理由はビンボーだったこと。たしかに今は牛丼やハンバーガーは安くなっている。しかし、テイクアウトのモノをそのまま食べるには抵抗があるし、安いはんぱな外食では満足できない。それに、自分で素材を扱うと食のことがわかるし、ダイエットにもいい。という結論になったのだ。一食200円を基本に、食と生活のエッセイと食生活を組み立てたレシピ16点が収められている。
 レシピの分量はけっこういい加減。それに、調理器具にしても簡単なもので大丈夫という。でも、料理は分量ではなく慣れだから、その勘所がわかればそこそこにできるはず、と著者はいう。コピーライターだった著者は、仕事で『カゴメ』を担当したときに料理について可なり勉強をさせられたという。そのあたりの知識もちらほらと書かれている。
 取り上げたのは、男の私に作ってみようかと思わせてくれたから。この材料と道具なら自分でも持ってるし。それに、状況も立場も違うが私もビンボー。今、自分の仕事や生活を考え直している私にとっての食と暮らしの指南書なのである。
 『孤独のグルメ』(久住昌之×谷口ジロー、扶桑社文庫、630円)は、個人で輸入雑貨の貿易商をやっている男の外食の物語。気ままに見える自営業者ではあるが、時間に不規則で決まった時間に食事をとりにくい。時間を外して入った食堂やレストランのご飯とその光景を描写している。高級レストランなどのグルメがないのは、独身の個人事業主が主人公だからか。このあたりがリアリティ。食べ物について、その店について“その気分、わかる!”と思わず膝を打つ感覚が楽しい。何気ないこと、何気ない食事風景なのに、読むものの気持ちを離さないのは、久住昌之の独特な視点、谷口ジローの精緻で強い漫画力によるもの。一人で食べる食事ってちょっと空しいけれど、こんな店で、こんな感じで食べるんだったら悪くないかな、とも思う。この店が本当に実在しているのかもわからないけれど、いつか食べてみたい、と思わせる。これらの店のほとんどが関東圏だというのがちょっと残念。
 『悦楽の野外料理』(西川治、CBSソニー出版、1550円)は男を野外料理に誘う本。著者西川治が料理写真を撮り、野外料理のノウハウから素材、道具にまでこだわり、料理について文章も書いている。ここでは、アウトドアで料理をつくることがメイン。簡単料理から本格的なものまで、素材ごとに紹介される。外でこんなふうに料理したら楽しいだろうな、と思う。写真も文章も料理も憧れの世界を見せてくれる。個人的には、料理や食べ物の文章を書いたり、レイアウトしたりするときに、お手本ともなってくれてるのでとても助かります。
(塩屋光一) 戻る ↑

文:大島みどり(おおしま みどり)
E-mail:VFA00474@nifty.com


文:山崎元子(やまさき もとこ)
E-mail:genko@pc.highway.ne.jp


文:塩屋光一(しおや こういち)
E-mail:showya@ppp.bekkoame.ne.jp

トップページ
バックナンバー


COPYRIGHT

企画制作協力: B-plan;アジール・プロダクション