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なんだか元気の出ない世の中です。こんなとき、空元気、無理な強気は疲れます。しみじみ、しんみりと過ごす夜があってもいいのでは?
泣いてみましょう。
― 藤根れいじの選んだ3冊 ―
『センセイの鞄』 (川上弘美、平凡社、1400円
短編の得手、川上弘美はファンタジーの世界から現実を見つめる。勘所のいい作家だ。その著者がさらに一歩、現実世界に近づいてきているのが本書である。
本書は川上ファンならばお馴染みの短編集ではなく、短編集のような形式の長編小説である。とはいえいつもの短編集のようにも読めるし、それにあのほんわかとした世界観は健在だ。ただし、川上作品につきものの不思議な生き物は出てこないので、あしからず。
しかし、そこが本書のいいところなのである。主人公は三十代後半のツキコさんと、ツキコさんの高校時代の恩師であるセンセイで、「歳は三十と少し離れている」二人の師弟のような恋愛のような、淡い感情を書き記すことが、本書の話なのである。そこによけいな生き物は不要だったのであろう。処女短編では、くま(たぶん動物)とのそういう関係を書いていたが、それが進んでこうなったというわけだ。だが、センセイは十分不思議な人物であるので、そこのところで満足してくださいという事なのかもしれない。
そしてもう一ついいところを挙げると、それは本書が長編小説というところである。主人公のツキコさんは、川上作品の例に漏れず変わった人である。そのツキコさんがページを進めるごとに、センセイへの想いが募ってくるのである。そのいじらしいく、しかし、じれったい様は読んでいるあなたの心に、少しずつなにかを訴えるはずである。なぜ、徐々にこみ上げてくるのか?それは、一編一編の中に別れがあるからである。
川上作品はよく、ほんわかとした恋愛が気持ちいい、と言われているが、実はいつもキチンと別れを書いているから気持ちいいのである。出会って別れる、今までの作品はこの繰り返しだった。しかし、本書は出会いを最初のみに押さえ、あとは長編の利を生かして、ツキコさんとセンセイの恋愛をじっくり書くことに成功しているのである。その例として、今までの川上作品にこのような強い文章があらわれていただろうか。「わたしは絶望する。絶望しながら、センセイの眠りから遠く離れた自分の眠りの中にひきずりこまれていく」
そして、最後の話で別れが登場する。もし、あなたがこの作品を読み、ツキコさんの感情に共感を覚えるのなら、著者が最後の最後に取って置いた別れをどう感じるだろうか。ほんわかとした気持ちのいい思いと共に、あなたは、涙を流すことになるかもしれない。
『そこに愛がありますように』(渡辺眞子、WAVE出版、1300円)
私の家ではずうっと犬を飼っていた。たしか通算で五、六頭だったはずである。その犬達は今では皆、鬼籍に入ってしまったが、その度に悲しい思いをしたのを覚えている。
本書は犬達との悲しい別れを、筆者の体験からつづった実話である。喋れない犬に対してだからこそ、そこには嘘偽りのない、愛にあふれた物語がある。特に興味深いのは、精一杯看病して、つくしてつくしぬいた犬ではなく、仕事に夢中である日突然死んでしまった犬のほうに心を痛めている点である。やはりそのように死なれると、心残りなのだろうか。この本のどこに愛があるのか、それは読んだあなたにきめてほしい。
『きみにしか聞こえない〜CALLING YOU〜』(乙一、角川スニーカー文庫、476円)
ジュブナイルだからといってナメてはいけない。最近、ジュブナイル出身の実力作家が増えているのである。この乙一(おついち、と読みます)は、その予備軍の一人である。そう私はにらんでいる。
本書は三編の短編からなる、短編集である。最初に紹介した『センセイの鞄』とはまた違った、淡い感情の小説である。お奨めは、三編めの『華歌』であろう。列車事故が原因で病院に入院している主人公の陰鬱な語りで始まるこの話は、奇妙な生物に出会うことで軽やかになっていく。この本でも十分泣けるが、もっと腕を磨いてくれば、もっと泣かされることになるであろう、著者の一冊。お奨めする。
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