| ミステリー、大好き! | 02/04/11 |
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― 森茉莉ファン必読!? 茉莉を救うため駆けずり回る森鴎外と石川啄木たち ― 『森鴎外の事件簿』 楠木誠一郎 勁文社/ケイブンシャノベル 819円 |
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森鴎外は、現代では案外忘れられかけている作家のようだ。 親しみにくさのせいだろうか。芥川龍之介や夏目漱石に親しんできている読者は多いが、森鴎外に親しみをもつ読者はあまりいない気がする。そして、たとえば漱石ならば『明暗』の続篇を他作家が発表したり、作品や漱石自身を題材にしたミステリが書かれていたりするのに対し、森鴎外を題材に取りあげている現代小説はあまり見当たらないようにも感じられる。そればかりか、現在入手できる鴎外自身の作品もかなり減っている。 しかし本来、鴎外はもっと記憶に残されてしかるべき人物のはずだ。 森鴎外は「大」がつくほどの文豪であり、巨大な発言力をもった文学者であり、岩のような意思力と言説で時代を闘った人物であり、そして、伝説にもなるほどに娘・森茉莉を溺愛した「パッパ」であった。 そんな鴎外をミステリー仕立ての物語の中でほぼあますところなく描いたのが、この小説『森鴎外の事件簿』だ。 ほぼあますところなく――と言っていいのだろうと思う。 たとえばちょっとした癖、外出から帰ってきて衣服を脱ぐ様子なども、著者の勝手な想像によって描写したわけではなく、資料をもとにして描いたものではなかろうかと思える書き方がされている。鴎外家の様子はむろん、同時代の文学者や周辺の人物とのかかわりの描き方なども信用できる雰囲気だ。 事件は森鴎外家に窃盗犯が侵入するところから始まる。その直後、その賊と思われる男が死体で発見され、次第に事態は混迷を増し、ついには愛娘の茉莉が誘拐される。 ミステリーとして純粋に判断すれば、その事件もからくりも解決のなりゆきも若干甘いようにも思えるのだが、とにかく登場人物たちの描写が楽しくて、「ミステリーとしてどう」といったことはあまり問題にもならない。 森茉莉と森於菟、そして、峰子と志げの嫁姑合戦、さらには石川啄木や北原白秋らといった人物たちの生き生きとした描写。 森茉莉を始めとする一族の人間がのちにその著作で描きだした鴎外家がくっきりと形をもって復元されていくようだった。 そう……ことに森茉莉ファンには、この小説を読んでもらいたい気がする。おそらくこの小説の本当の主人公は森茉莉なのだろうから。 【おまけのひとくち評】 『タイムスリップ森鴎外』鯨統一郎(講談社ノベルス780円+税) 読みながら、その本についてこれほど誰かと話したくなったのは久しぶりだ。 「作品内で森鴎外が何をするか、だれにも言わないでください」と著者が断り書きをしているのだが、それを守るのはほとんど無理というもの。 いや、少しだけならいいだろう……鴎外はラップを歌い、携帯電話メールで顔文字を使い、赤川次郎や宮部みゆきを読んで感心する。ほかにもまだまだ…… 現代にタイムスリップした森鴎外の言動だ。この本の中で鴎外は世界の大変化に目を白黒させつつ、しかし並外れた順応力でたちまち馴染んでいく。そして、歴史にまつわるとんでもない疑惑をいだく。 とにかく可笑しい小説なのだけど、ミステリーとしても抱腹絶倒。いわゆる「とんでも科学本」の解釈に似た強引な推理展開なのだが、それがたまらなく楽しくて、そしてすごい。ありえない展開のはずなのに、なぜか腑に落ちて納得できてしまうのだ。すごい、と。 |
| 文:山本利津夫(やまもと・りつお) 実在の人物をフィクション仕立てにした小説に最近興味がわいてきました。というか、おもしろいです。 森鴎外ものももう少し読みたいところ。笙野頼子『幽界森娘異聞』、高橋源一郎『日本文学盛衰史』『官能小説家』、東秀紀『もう一つの『舞姫』』 、沼口勝之『孤愁の仮面』あたりは読んでおきたい。 Mail:rich@milkcafe.to ホームページ:http://rich.milkcafe.to/ |
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