bookicon ミステリー、大好き! 01/02/28
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― あのオーソン・ウェルズも惚れ込んだ、南洋上の極限サスペンス ―


『絶海の訪問者』

チャールズ・ウィリアムズ 著 矢口誠 訳 扶桑社ミステリー文庫 705円

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 扶桑社ミステリー文庫にいま挟まっている栞には、こんな広告コピーが書いてある。
「おもしろい本に国境はない!」
 いやまったく同感、同感。どこの国の作家だろうと、古かろうと新しかろうと、おもしろけりゃ文句はない。
 というわけで、今月は、アメリカで1963年に書かれたサスペンス小説をご紹介したい。作者の名前はチャールズ・ウィリアムズ。……はて、誰でしょう?
 日本ではぜんぜん有名じゃない。ところがこの人、かなり実力派のミステリー作家だそうで、本国ではひところ大人気だったらしい。処女作が250万部も売れたというから、相当なもの。映画化された作品も数多く、たとえば、フランソワ・トリュフォーの遺作『日曜日が待ち遠しい!』や、デニス・ホッパーの『ホット・スポット』は、このチャールズ・ウィリアムズの小説にもとづいている。今回取り上げる『絶海の訪問者』も、鬼才オーソン・ウェルズが、一読してすぐさま映画化権を買ったという。……へえ。よほどおもしろいのかな?
 そこで、あらすじ。

 主人公は1組の夫婦だ。ふたりっきりでヨットに乗って、のんびり新婚旅行を楽しんでいる。パナマ運河を通り抜け、めざすはタヒチ。南洋の大海原には、見渡すかぎり誰もいない。波は静かだし、空は快晴。心配事なんか何ひとつない……はずだった。
 ある早朝、遠くに別のヨットが見えてくる。おやおや、旅の友ができたらしいぞ、なぁんて思っていると、そのヨットから手漕ぎボートがこっちへ向かってきた。乗っているのは青年ひとりだけで、なぜか必死の形相だ。
 どうしたことかと事情を聞く。「あっちのヨット、沈みかけてるんです」青年はそう説明した。おまけに、ほかの3人の乗員がみんな食中毒で急死。もはや一巻の終わりかと思ったとき、夫婦のヨットを発見し、夢中で漕いできた、とのこと。
「まあ、お気の毒に」と妻は同情する。しかし夫のほうは、この青年の言動にかすかな不信感を抱いた。青年が眠っているすきを見計らい、「ちょっと、向こうの船を見てくる」と妻に言い残して、沈没しかけたヨットのようすを調べに行く。すると船内には、驚くべき光景が……
 おっと、あぶない、あぶない。つい口がすべるところだったけれど、夫が船内で何を発見したのかは明かさないでおこう。(え? 青年に殺された3人の死体がころがってたんじゃないのかって? いいえ、ハズレです)。まぁとにかく、浸水して沈みかけているのは事実だったが、青年の話には重大な嘘があることがわかった。夫はあわてて、妻のいるヨットに合図を送ろうとする。だが時すでに遅し。見ると、青年が妻を殴り倒して、舵を握り、逃げ去っていくところだった。
 たいへんだ、追いかけなければ! と夫はあせる。しかし、こっちのヨットは沈没寸前。エンジンさえかからない。帆に風を受けてゆるゆると動くのが精いっぱいだ。あたりを見回すが、ほかの船が通りかかる気配もない。
 さあ、ここからいよいよ中盤。物語はしだいに加速し、2隻のヨット上でそれぞれのドラマが展開する。夫は、浸水と戦いながら、妻の身を案じて死力を尽くす。妻は妻で、青年に対抗する術はないだろうかと知恵を絞る。一方、沈みかけたヨットのなかで過去に何が起こったのかも、少しずつ明らかになっていく。
 事態はめまぐるしく変わる。けれど、浸水は止まらない。刻一刻と夕暮れが迫る。そのうえ、無情にも、彼方からはスコール雲が……。

 単純なプロットでありながら、いや、単純なプロットだからこそ、すばらしい緊迫感に満ちている。これぞ娯楽、これぞエンターテインメント! こんなにおもしろい未訳本を発掘した訳者に、大きな拍手を送りたい。

【おまけのひとくち評】
 単純明快なプロットで読者をぐいぐい引き込む佳作を、もう1冊ご紹介しよう。同じく扶桑社ミステリー文庫の『四年後の夏』(パトリシア・カーロン著、田中一江 訳、700円)だ。
 偶然出会ったふたりの少女が、気ままなヒッチハイクを楽しむうち、ささいなきっかけから騒動を起こし、ついに、ある男性を殺してしまった。ところが、つかまったふたりは、真っ向から食い違う供述をして、たがいに罪をなすりつけ合う。真相は薮の中。はたして、どちらが嘘をついているのか?
 いったん迷宮入りしたこの事件を解明すべく、4年後、私立探偵が立ち上がる。関係者の証言、供述書、手紙など、多彩な文章構成によって、取り返しのつかない青春の日のあやまちが再現されていく……。
 読後の印象がやや暗いのが玉にきずだけれど、真実が明らかになるまでのハラハラ感は絶品だ。

文:中山宥(なかやま・ゆう)
  おまけのおまけ。筒井康隆ひさびさのミステリー『恐怖』(文藝春秋、1048円)は、怖さと狂気とドタバタが入り交じった、いかにもこの作者らしい小説。ただし、『ロートレック荘事件』のような本格的なミステリー物ではないので、くれぐれもお間違いなく。(何を隠そう、私は完全に勘違いして読んでしまいました……)
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