| 01/03/16 |
![]() |
|
||
![]() |
|||
|
■ ごあいさつ 最近なんだか「復刊フェア」が多い。長い間探していた本がゲットできるのだから,これはうれしい。でも復刊するってことは売れるってことでしょ? じゃ絶版にしないでよって思うのはワタシだけでしょうか? 『木島日記1・2』 大塚英志+森美夏 角川書店 各1000円 このコミックにはちょっと興味があった。というのは,このコミックの原作となった小説「木島日記」を途中まで読んだのだけど,どうにもなじまなくて挫折しまったからです。私の辛抱が足りないためコミック版と小説版を読み比べるという楽しみが無くなってしまったのだけど,コミック版は独特の魅力がありますね。無事最後まで読んだどころか,2巻も買ってしまいましたとさ。 民俗学者の折口信夫がある日迷い込んだ古書店で仮面の店主に出会い,そして次々と怪事件が起きる。ムー大陸,死人返り,ダイダラボッチ,ロンギヌスの槍,八百比丘尼という趣向だけど,折口信夫が狂言回しになっていて,東方協会やら日本陸軍やら怪しいキャラが入り交じるストーリーはなかなかに魅力的ですね。それにまして森美夏の絵が面白い。説明を放棄したような投げやりに見える描線がなんとも特徴的っす。一回読んだだけでは何がなんだかよくわからないんだけど,大塚英志の過剰な言葉と,森美夏の寡黙な絵がちょうどいいバランスなのかな。 大塚英志は,漫画原作家(例えば「マダラ」など・・代表的なホームページみたいのを探してみたんだけど見つかりませんね)としての側面しかよく知らなかったので,小説にちょっと興味を持ってみたのだけど(挫折しちゃしょうがない),こんな本も出していました。 『物語の体操』 大塚英志 朝日新聞社 1400円 これは面白い。というか興味深い。簡単にいってしまうと,小説家になるための講座なんだけど,アプローチがきわめて明快で分かりやすい。 小説を書くという行為は特別なものなのか。天与の才能のある一部の人間だけに許された魔術のようなものなのか。この本では,少なくとも「おはなし」を作る作業に関しては,マニュアル化できるという立場をとっています。つまりプロットは技術であるというわけですね。小説はストーリーやプロットだけではないという話もありますが,まあ,そのへんは思い切り割り切っていて,例えば文章に関することはまったく触れられていない。まず「おはなし」を作ることで,とりあえず小説を書くということに目標が置かれています。うむ。とても分かりやすい。 その「おはなし」作りのための手法として,「行為者モデル」と呼ばれるものを取り入れている。「援助者」「主体」「敵対者」「送り手」「受け手」「対象」の6つの役割を相互に矢印で結んだもので,物語の普遍的な構造を示している。このモデルに,さまざまなオブジェクト(キャラクターとは限らない)を当てはめることで,無限の「おはなし」を作ることができるという仕掛けです。この他にもプロップという人の提唱した「物語の31の機能」が紹介されるなど,徹底して物語の技術化を前面に押し出しています。 さて『木島日記』でとりあげられた超常的な事件は,木島日記オリジナルというわけではなく,古くから何度も色々な小説や怪しげな文献や子供の頃胸をときめかせた”ドキュメンタリー”に登場しているわけです。で,怪しい本といえば「トンデモ本」の出番なわけです。 『と学会年鑑2001』 と学会 太田出版 1300円 帯には「2年ぶりの新刊」とあります。そんなに経ってますか。なんかこのところ出るたびに出版社が違うような気がしますね。気のせい? と学会が出した本としては第一弾の『トンデモ本の世界』が有名で,これは古今のトンデモ本(執筆した本人の意図とは別に笑えてしまう本)を紹介したものでした。最近はパターンが変わっていて(そりゃそうだ。「トンデモ本の世界」のパターンだと第一弾からだんだんパワーダウンするしかない),と学会例会の模様が中心になっています。と学会員が見つけてきたトンデモな本やグッズやビデオやCDを紹介するというスタイルになっています。ホームページのアドレス付記されている物件?が増えました。時代を感じさせます。例えば「Revalation X」(http://www.subgenius.com/)は,カルト宗教のパロディサイトで,わけのわからん本やら画像やらが満載です。わたしはすっかり気に入って壁紙にしています。 もう内容があまりに千差万別なので紹介に困ってしまうんだけど,『旧約聖書は漢字で書かれていた』とか『念じるだけで巨富が築ける』のような正統派トンデモ本も捨てがたいけど,やはり,と学会例会ならではの『ペリーの声』(ペリーが開国を迫ったときの声・・ちなみにワタシも友人から送って聞いたことがあります。爆笑もの)とか『エナジーリファインCD&MD』(回しておくだけで体がよくなる!)なんかが素晴らしいっすね。実物を目にできないものが多いのが残念です。 と学会でとりあげる疑似科学とは背反対の正統派をいくのがリチャード・ファインマン先生。ノーベル賞もとっています。大学のときに『ファインマン物理学』という本を教科書に指定した先生が,夏休みの間に交通事故で亡くなってしまったとか,よけいなことまで思い出す。 『困ります,ファインマン先生』 R.P.ファインマン 岩波現代文庫 1100円 「ご冗談でしょう,ファインマンさん」に続くエッセイ集の第二弾ですが,減未鬱に言うとエッセイではないのです。なぜなら,これらはすべてファインマンが共著者のラルフ・レイトンに面白おかしく語って聞かせたエピソードを,彼が文書にそして本にまとめたものだからであーる。つまり自叙伝ではないし,もしかすると大ボラかもしれない。となると,ラルフ・レイトンの名前が本の表紙のどこにも出ていないのが,はなはだ奇異な感じもするけど,何か事情があったのでしょうか。 『困ります,ファインマン先生』は大きく三部に分かれていて,第一部では父親と初恋の女性の思い出が語られる。ファインマンは実に子供の頃からファインマンであったのですね。ものの考え方もそうだし,問題に対する対処の仕方というかスタイルが変わることが無い。軽々しく信じることなく,かといって新しい事実に目をそむけることなく,そして常にユーモアを忘れない。こうしたファインマン流が作られるプロセスが,この第一部を読んでいると分かる気がします。例えば高校のときに受けたリージェント試験(進学の適正をはかるというから,模試みたいなもの?)の中に『航空術における科学の重要性をエッセイを書く』というものがあった。それをみたファインマン青年はこう考えるのだった。 「こんなあほらしい問など聞いたこともない。航空術における科学の重要性など,わざわざ聞くまでもなくわかりきったことじゃないか!」 ファインマン青年は「文学青年どもがよく使う手を思い出し」て,わざと難しい語句を書き連ねてエッセイを仕上げ,見事卒業式に表彰されるのであった。 ファインマンのエピソードは物理学とは何の関係もない。もちろん公式なんか知らなくても楽しく読める。しかし,このエッセイぐらい正しく学んで正しく考えることの素晴らしさを教えるものはないいですね。チャレンジャー号爆発事件の真相解明に取り組んだ第三部は圧巻。机の前で考えるだけではいけないというファインマンさんの哲学が見事に発揮されています。 真面目にやればやるほどトンデモになるネタというのは,逆に言えばエンターテインメントして扱えば面白くなるネタなわけで,そんなネタで小説を書きつづける作家の一人にF.P.ウィルスンがいます。「ナイトワールド・サイクル」と称したモダンホラーのシリーズの完結後は,サスペンス小説が多かったウィルスンですが,「ナイトワールド・サイクル」の登場人物の一人である”始末屋ジャック”を主人公にカムバックさせた長編を出しました。 『神と悪魔の遺産(上・下)』 F・ポール・ウィルスン 扶桑社ミステリー 各724円 ある女性医師が相続した家が今回のミステリーの中心となります。とにかくこの家を欲しがる連中が出てきて,彼女をつけねらいまくります。彼女の味方になる人間はどんどん排除されてしまうのに,彼女自身には危害は及ばない。あの家には何があるのか。医師の勤める小児エイズセンターのクリスマスプレゼントの盗難事件を解決するために登場するのが”始末屋ジャック”。社会保険番号も,免許証も,パスポートも,クレジットカードも持たない「存在しない男」です。 その家を狙っているのはサウジアラビアと日本の闇の組織で,特に日本人工作員瀧田義雄がいい味出しています。こいつはアメリカの食い物が大好きで,尾行中に(ちなみに天才的)ケンタッキーフライドチキンを食べたりしている。ジャックの趣味は古いホラー映画の収集で,武器調達を行うエイブの店は「イシャー」,あらゆるビルのダクトや秘密の小部屋などに侵入するのを趣味とするビル・ハッカーのミルクダッドなどなど,登場人物が魅力的ですよね。ストーリーは,家の謎を引っ張るだけ引っ張って,最後に意外なところに落ち着くんですが,あれじゃあサウジと日本が奪い合う理由にならない気が・・ 始末屋ジャックシリーズは,このあといくつか出る予定があるようです。うーむ。楽しみ。 最近いわゆる黄金期ミステリを読み返すという運動をひとりで進めているワタシですが,意外と黄金期のミステリは入手できない。クリスティを例外として,カーやクィーンでもほんの一部しか本屋さんの書棚にはないという状態です。まあ新本格がこれだけブームならば,別に読みにくい翻訳ミステリを買う必要もないって話もあるんですけど,それはちょっと寂しい。ミステリー好きな人はだいたい黄金期のミステリを中高生のときに読んでいるんですよね。それって,ちゃんと面白さを分かっていなかったんじゃないかなあというのが,今回の読み直し運動のキッカケでした。もうストーリーもトリックも忘れてしまっているし,幾人もの重要な作家の作品を読み逃しています。その重要な作家のうちの一人が,私の場合クリスチアナ・ブランドでした。代表作の『緑は危険』や『はなれわざ』は,神奈川県の一都市では発見不能だったので,比較的入手しやすいところから攻めてみました。 『招かれざる客たちのビュッフェ』 クリスチアナ・ブランド 創元推理文庫 各860円 これはかなり厚めの短編集で,本格から”奇妙な味”のものまで幅広いジャンルのものが含まれています。意外なことに,クリスチアナ・ブランドの生み出した名探偵コックリル警部の登場する短編よりも「ジェミニー・クリケット事件」「もう山査子摘みもおしまい」「バルコニーからの眺め」「メリーゴーラウンド」といった非ミステリー系の短編のほうが楽しめました。もうなんつーか紙面から悪意がにじみ出そうな人物を描かせると,この人は天才的ですな。そう考えると「血兄弟」や「コップの中の毒」でも,コックリル警部の推理にも増して,犯人のキャラクターに惹きつけられます。冷酷だったり愚かだったり打算的だったりとパターンは色々ですが,とにかく悪人が生き生きしているのが,クリスチアナ・ブランドの短編の特徴と見ました。今度は長編を読んでみたいものです。 |
| 文:松永肇一 睡眠学習エンジニア 会社を転社したのに,前の会社で勤務続行。全然移った実感が湧かない。関係ないけど,憂鬱な季節(=花粉の季節)が近づいてまいりました。 E-mail:lee@lares.dti.ne.jp |
|
◆ トップページ |
◇ バックナンバー |
企画制作協力: B-plan;アジール・プロダクション |