book_icon02.jpg 活中エンジニアのお薦めアラカルト 00/06/15

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■ ごあいさつ
 この前「テレビを見ていたら本を読めない」って話をしましたが,これよりひどいのはゲーム。ゲームをしていると本当に読書量が減ります(子どもじゃないんだから・・という説あり)。ゲームをしない通勤電車の中はますます貴重な読書空間になっています。

『現代作家100人の字』 石川九楊 新潮文庫 476円

 自分の字ってみんなどう思っているのでしょうか。昔から字が下手だった私は,小学校3年のときから習字を習ったんだけど,この習字風の字がまた嫌いでたまらなかった。鉛筆で習字風に書くとなんかもう耐えられない字になるということをコドモなりに発見したわけです。ところが中学生のときに,技術の製図の時間にゴシック体という文字に出会って衝撃を受けます。この頃から他人の書く文字にも興味を持つようになって,よく井上陽水の独特の字体なんかを真似したことです。
 さて,そんな私にとって書の写真が多数収録されていて,いろんな書体を見ることができるこの本は実に楽しい。取り上げられているのは,永井荷風や谷崎潤一郎のような昔の作家や,谷川俊太郎のような詩人,犬養毅のような政治家,挙げ句の果てにはビートたけしから酒鬼薔薇聖斗まで幅広い。それぞれの字というか書を見るだけでも興味は尽きないけれど,石川九楊による解説がまた楽しめる。「書は人格である」という誤解に対する批判。話し言葉として成立する欧米語に対して,書き言葉として成立してる日本語の特徴(ここからワープロ有害論に展開するところが実に面白い)の指摘。角張った漢字と丸いひらがなを組み合わせた明朝活字に対する不信感。いやあ,どれも目から鱗っすね。書に対する解説をエンターテインメントにしてしまったことが一番凄いか。
 なお,石川九楊も絶賛しているけれど,明治事態の政治家副島種臣の書は圧巻にて必見。これだけでも立ち読みで見よう。


『新生の街』 S.J.ローザン 創元推理文庫 860円

 私が新刊を心待ちにしている海外のミステリシリーズは4つ。ドン・ウィンズロウの「ニール・ケアリー」シリーズと,R.D.ウィングフィールドの「フロスト警部」シリーズが2大メジャー。ここでも何度も取り上げたハーラン・コーベンの「マイロン・ボライター」シリーズと,この「リディア・チン」シリーズがブレイク寸前ってところでしょうか。

 チャイナ・タウンで私立探偵業を営む小柄な中国系女性探偵リディア・チンと,彼女の相棒,アイリッシュ系の私立探偵ビル・スミスが主人公。一作毎に主人公が入れ替わるという趣向で,今回はリディア・チンの番です。
 ジェンナ・シンという新人デザイナーがショー用のデザインを書いたスケッチブックを盗まれる。これを取り返すために金を渡す役に選ばれたのがリディア・チン。ところが私に行った先で銃撃が起きて.. という発端から相変わらずの楽しいテンポ。チャイナタウンという保守的な土地で女性として私立探偵をするリディアはなかなか大変っす。
 グチる母親や危険な職業に反対する兄なんてのは,いかにも家族主義の中国系アメリカンらしい(その兄がゲイで,それを家族に隠しているところなんかも)し,もちろん事件も解決しないといけない。私の好きな海外ミステリの例に漏れず,もうほんとに出てくるキャラがどれも生き生きしていますね。リディアとビルは当然のこと,ジェンナ・チンとその絶縁している妹,ジェンナの恋人は事業の才能のない白人だけど,彼の母親は大金持ちで中国人を憎んでいる。こういう多彩な人物がまるで実在の人間みたいに描かれています。リディアが同じ中国系のローランドという青年とチャイナタウンでお茶を飲んで帰宅すると,母親がそのことを全て知っていて,必死にうまくいくように工作する(そう。リディアの母親はビルが嫌いなのだ)。この母親は最高。
 今回はリディアがフッションモデルをやるはめになるシーンがあって,リディアフリーク(っている?)には嬉しい限りです。


『ターゲット』 清水義範 新潮文庫 476円

 えーと,清水義範の本を読むのは久しぶり。「永遠のジャック&ベティ」以来かなあ。モダンホラーのパロディ短編集です。
 「彼ら」はスティーブン・キングの「IT」のパロディでしょうね。パロディといっても基本的にはモダンホラーそのものです。最後に意外なオチが待っていて,そこが清水風味なんだけど,なかなか雰囲気を出しています。「魔の家」はヘルハウスのことかな。これは全然ホラーじゃないけど,ハイテク機器が老人に対して凶器になるって発想は面白いっす。病院での検査でのドタバタを描く「メス」も似た傾向。大槻先生に捧げる(勝手に命名)「オカルト娘」はオチがいまいち。「乳白色の闇」はすぐにネタが分かってしまってちと辛い。
 意外といけているのは「延溟寺の一夜」とか「ターゲット」のような,ほとんどマジのモダンホラーですな。短編だとちょっとものたりないので,もう少し長めに書いて欲しいところ。


『石油ポンプの女』 立川談四楼 新潮文庫 400円

 立川談四楼の落語は聞いたことはないが,小説は見かけるたびに買っている。プロボクサーとして活躍する落語家を主人公にした「ファイティング寿限無」とか面白かったなあ。

 『石油ポンプの女』は短編集で,例によって主人公はどれも落語家です。まあ,現代の落語家はなかなか厳しいものがあります。落語中継の TV 番組なんてないし,真打ちになっても名前が売れるわけでもない。つまりどこまでいってもカネにならんわけで,こりゃ,家族を養うにはあまりにやばい仕事です。それだからもう区議会の対立候補両方の応援は引き受けちゃうわ,師匠に落語はやめると泣きながら訴えちゃうわ,若手落語家4人でアイドルグループを結成しちゃうわと,それぞれにあがくのであった。そのあがく姿が描かれた5つの中で,やっぱり盛り上がるのは「ジャングル寄席」っす。
 なんつっても落語が受けるって話がシンプルで読んでいて気分がいいではないですか。ジャングル寄席は,海外で暮らしていて,ふだん日本の文化に触れることのない日本人達に落語をきかけるツアーにでかける落語家二人の話です。ツアー最後に行き着いたのはナイジェリアのラゴス。急造の寄席があるのは火力発電所の建設作業員の住宅。湿度100%の灼熱の国での開催でござーい。日本の雰囲気に飢えた200人の男達の前での落語が凄まじいまでにうけまくるという話ですが,ラストは泣けるしね,いやほんといい話っす。嫌な奴が出てこないってのも気分がいい。
 あ,で表題作の「石油ポンプの女」なんだけど,これだけ完全に他の話とトーンが違っていて,ちょっととまどいました。女性経験のないことを恥と思っている噺家が何とかしようとしてひっかけるのが“石油ポンプの女”ってことなんけど,ちょっと異様な話っすね。読めば分かる。


『パソコンが野球を変える』 片山宗臣 講談社現代新書 660円

 最近はどうやら新書(といってもいわゆるノベルスではなく,岩波新書に代表されるような教養っぽいやつ)がちょっとしたブームらしく,新しい新書の創刊があったり,新書の新刊がたくさん本屋に並んでいたりして,「新書とビジネス書に意外なおもしろ本あり」という持論の私としてはたいへんうれしい状況です。

 『パソコンが野球を変える』は,野球界に革命をもたらしたと言われるデータ解析システム「アソボウズ」の開発者が,開発の経緯を記した本です。アソボウズに関しては数年前からそういうシステムがあるということだけは聞いていたものの,実際の詳細については明らかにされることがなかったので,野球好きのワタシにとって待望の一冊なのでした。
 アソボウズは簡単に言ってしまえば,野球のスコアをきわめて詳細にパソコンを使って記録して,あとから分析に利用するシステムといえます。打者でいえば,球種別・カウント別・コース別の打撃(どの方向に何本打ったか,空振りしたか,凡打になったかなど)を記録/解析し,投手で言えば,左右打者別・カウント別・イニング別の投球パターンを記録/解析できる。アソボウズを利用することによって,対戦相手を丸裸にできるわけで,これはもう情報戦において絶大な威力を発揮することは間違いありません。また一方で「来た球に向かっていく気力が足りない」とか「逃げずに勝負する精神力が大事だ」とかいう無能なコーチや監督が山といるのも事実で,それまで使われていたアソボウズが「前の監督が使っていたから」などの愚かな理由で使われなくなることも多いらしい。まあ先駆者の悲哀でしょう。
 後半では球界の代表的な投手と野手をアソボウズで解析した結果が説明されているんだけど,これが動かない誌面だと分かりにくいのが残念。去年とか一昨年のデータはアソボウズシステムと一緒にパソコンソフトとして販売してくれるといいのになあ。ぜってー買う。


『ゲームの話をしよう』 永田泰大 アスペクト 1300円

 日本で一番売れているゲーム雑誌「週刊ファミ通」に連載されていた(あ,いまでも続行中)同名の連載を一冊にまとめたもの。ひそかに「ファミ通」で一番面白いのはこのコーナーと信じていたワタシですので,連載中に全部読んでいたのに,本になったらまた買ってしまいました。
 だいたい,ゲームに関係する人(開発者とかデザイナーとか編集者とか)との対談のようなインタビューのようなもので,なにしろファミ通でも1ページの連載だったりするので,それぞれの話はちょっと短かったりするんだけど,盛り上がった話は数回続けてるなどの技でしのいでいます(←でも最近これが多い)。
 連載中に一番大笑いしたのは小学生にインタビューした回で,この小学生のふたりの話が笑える笑える。小学生のゲームの選び方ってのも興味深い。ゲーム雑誌とかは全然参考にしないのね。で,流行しているゲームが「007ゴールデンアイ」となるからワケわかんない。
 ゲーム開発者との話では驚くぐらい深い話になることがあって,下手な解説記事なんかよりよっぽどタメになりますな。特に海外の開発者と日本のゲーム事情について話すところは文化の差がかえって文化の特徴を際だたせるって感じで面白いっす。いろんなゲームの本を読んだけど,これほど面白い本はひさしぶり。続編希望。

文:松永肇一
睡眠学習エンジニア
IT関連株があれよあれよというまに暴落しちゃって,なんとも複雑な気分。同じ業界の人間としてはどんどん盛り上がって欲しいけど,もうちっと内容のあるビジネスで勝負して欲しい気も。。

E-mail:lee@lares.dti.ne.jp
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