ずっと絵本をながめていたい 02/07/19
coverimage ― ときにはこんな童話でなごみたい ―

 『花さき村のなんでもタクシー』

池川恵子作、村上勉絵 くまの出版 1,400円
[対象年齢:小学中〜]
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 年をとって夫婦で故郷の田舎に帰ってきたタクシードライバーの田中さん。山と山にはさまれた花さき村で「なんでもタクシー」をはじめました。《『お買物、ご用事など、かわりに、ひきうけます。なんでも、ご相談ください。お代は、野菜など、お気持ちで。 電話 ○×―1234』》こんなチラシをくばったのです。

 「なんでもタクシー」は最初のうちこそ利用があったものの、やがてほとんど仕事がこなくなってしまいます。毎日、乗る人のないタクシーをぴかぴにそうじするばかりの田中さん。そんなある日のこと、タクシーの無線機からふしぎな呼び出しの声がかかりました。《「ああ、よかった。ふたご山の、さいわい原へおねがいします……」》
 ふたご山のさいわい原といえばタヌキの住処としてしられる場所。はたして、田中さんを待っていたのはへんてこに着物を着た、どこかちぐはぐな母と息子でした。今日は息子の婚礼で、これから花嫁さんを迎えに山のむこうのほたる谷へ行くところだというのですが………やってきた田中さんの奥さんは、同情して彼らの着付けを手伝ってあげました。さらに、相手の花嫁さんの着付けまで頼まれてしまいます。なんでもタクシーの田中さん夫婦は、こうして奇妙な婚礼に招待されることになるのです。

 読んでいると、山や谷、森と動物……そういった日本の原風景の浮かんできてその中にスルリととけこむ感じがします。タヌキと人間――いかにも代表的な昔話の登場人物ですが、今では身近とはいえなくなってしまった動物と人間との交流を、田中さん自身の現役引退、結婚して離れて暮らしている娘さんへの老夫婦の想いと織りまぜ、現代的なメルヘンにしたてた作品です。作者の池川恵子氏は静岡県出身。『海辺のボタン工場』(ひくまの出版)の作者といえば思いあたる方も多いのではないでしょうか。1993年「おばあさんと桜の木」で第1回遠鉄ストア童話大賞優秀賞を受賞、2000年「海辺のボタン工場」で第3回熊野の里児童文学賞大賞を受賞した新進の童話作家です。挿し絵は、絵本の第一人者村上勉氏。生き生きとしてあたたかみのある、あの独特のイラストがほっとさせてくれます。

 そういえば、動物たちはEメールも携帯もなくたって暮らしていけるんです。本当に伝えるべきなのは、情報ではなく心なのかもしれません。
《「あの、あなたはそんなに遠くから、どうやっておはなししてるんですか」「はあ、わたしたちのそばには、遠くの者とおはなしができる木があるんですよ。木、といっても若い木じゃいけません。わたしたちの気持ちがよーくわかる、年をとった木じゃないとね。その木にむかって、はなしかけるんです。そうすると、どんなに遠くはなれていても、わたしたちの声が伝えたいと思う相手にとどくんですよ」》

【さらにもう一冊】
 『ほしとたんぽぽ』童謡(金子みすゞ/選 矢崎節夫、絵 上野紀子/デザイン なかえよしを(第一刷JULA出版局、1,263円[対象年齢:幼児〜])
 最近、注目をあつめている童謡詩人金子みすゞの詩を絵本に編んだ一冊です。声に出して読んでも、じっと見つめて味わっても、すばらしいの一言。感性の宝石箱――そんな言葉が浮かんできそう。

文:戸部かよこ(とべ・かよこ)
 熊本在住のフリーライター。
 web-えほん.comサイトに創作絵本あります。よかったら読んでやってください。
http://www.web-ehon.com/
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