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さくらももこのなんてことのない平凡な子供時代のエッセイ集である。漫画の”ちびまるこ”そのままのありふれた日常の話なのだが、この平凡な、なんてことのない日常の話というのがくせ者なのだ。誰にでも覚えがあるはずの幼い頃の失敗やどきどきなんてものは、単純な故にすっかり忘れてしまっている。それを幼い頃の強烈な印象のまま、おもしろおかしく文章にしてお金を得るというのは、なかなか出来る物ではないのだ。 ももこは地味で平凡で単純な少女であったが、そのまま地味で平凡で単純な大人にはならなかった。自然や動物は好きだが、勉強や努力とかは嫌い。家が八百屋なため買ってもらうことの出来なかったいし焼き芋に対する子供ながらにみせる情熱や、紙芝居にはまり散財したことなど、その一つ一つが誰にでも思い当たる出来事ではないだろうか。しかし全編を通して感じられるのは漫画を描きたいという願望だけは常に強く持ち続けていたということである。それは決して簡単なことではない。 ももこのバレンタインデーの話を読んでいて、私もバレンタインデーのある出来事を思い出した。中学生だった私は硬派というか単にもてなかったせいか、バレンタインデーにうつつを抜かす女どもをなかば馬鹿にしたような目で見ていた。しかし、二年生になったときとうとう憧れの人ができたのである。バスケ部の彼はちょっと不良っぽくて、そのすねたようなところがまた魅力的で女の子にも結構人気があった。その人気者の彼が何故か同じクラスの地味な私なんぞに、なかなか優しくしてくれたりして(おそらく彼としては普通に接しているつもりだったと思う)私は今まで知らなかったときめきなんてものを感じたりしていた。 なんとか彼ともっと近づきたいと思った私はあっさりバレンタインデーというものを利用することにしたのだ。友達まで巻き込んで硬派の私はミッキーマウスのチョコを選んだのだが、当日渡したくても恥ずかしくてなかなか声をかけられない。しかも取り巻きみたいな女が彼を囲んでいて私は側にも寄れないじゃないか。早く彼に私の気持ちを伝えねばと焦っていると、ラッキーなことに彼がこちらの方に歩いてくるではないか。チャンス到来とすかさず私はそばに寄って行き、それでも面と向かって渡すのは恥ずかしいのでさりげなく、あくまでもさりげなく「あたしもチョコは持ってきたんだけど、渡したいひとがいなくてさ。あーあ、誰かもらってくれないかな。あ、そうそう○○君もらってくれない?」なんて言ってみた。白々しかったと今でも思う。でもそのときはそうするしか無かったのだ。そして「あーだったら俺がもらってやるよ」とことはすんなり進むはずだった。しかし彼の口からは思いも寄らぬ言葉が発せられた。 「そーだよな。お前みたいなブスからは誰ももらわないよな」 ショックだった。私は完全に打ちのめされた。そーか私はブスなんだ。ブスはチョコなんか渡してはいけないのだ。ブスだから彼とは付き合えないのだ。それなのに身分知らずの夢なんか見て恥ずかしい。そーか、そーなんだ、知らなかった……。とほほ……な状態とはまさしくこのことである。かくしてミッキーマウスのチョコは私の胃に収まった。その後何年かして彼が立派なヤンキーになったことを知り、付き合わなくて良かったと自分が心底思うようになるとはそのときは夢にも思わなかった。ももこは下級生の女の子から思いがけずチョコをもらい「こんなふうに、思いがけない展開になることがこれからの人生でもいっぱいあるのだ」と悟るが、まさしくその通りである。 |
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| 文:柳ぴょん 年齢、性別は不詳。一応あの広末涼子の先輩にあたる。 昼間はだらだらとフツーに会社で働く自称アングラライター。趣味は投稿とホテル巡 り。山羊座のO型。 |
企画制作協力: B-plan;アジール・プロダクション |