コンピュータとインターネットの本 02/05/02
coverimage ― 初心者でも確実に理解できる、国産プログラミング言語の入門書 ―

『たのしいRuby ― Rubyではじめる気軽なプログラミング』

高橋征義/後藤祐蔵 ソフトバンクパブリッシング 2600円
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●『ビタミン・バイブル』を超えた内容

 ハードウェアはともかく、ソフトウェアではオリジナルなものを生み出せていない……日本のコンピューター文化を語る上で、よく語られている言葉だ。しかし数年前から、国産のプログラミング言語が海外でも大きな注目を集めている。まつもとゆきひろ氏が開発した「Ruby」(ルビー)がそれだ。Rubyは誰でも簡単に扱うことのできるシンプルなプログラミング言語を目指して開発されたもので、オープンソースソフトウェアとして世界中で自由に改良が加えられている。そのRubyに関する最新の入門書が本書『たのしいRuby』だ。

 もっともこのサイトの読者には、プログラミング言語といっても自分とは無縁のものだと思っているひとが多いかもしれない。たしかにいま、仕事で特定のアプリケーションを使うだけの層と、自分でプログラムまでこなす層ははっきりと分かれている。本書の著者たちは「はじめに」でこの現象を「文章を読む人」と「文章を書く人」の違いと表現しているが、より正確には「音楽を聴く人」と「音楽を作る人」と形容したほうがもいいかもしれない。ただ音楽を聴き、カラオケを歌うだけなら誰でもできるが、いざ自分で作曲したり楽器を弾いたりするとなると、特殊な技術や長期間の教育が必要なように思えて、始める前から尻込みをしてしまう。それと同じことがコンピューターにも言えるのではないだろうか。しかし楽譜を読むことができれば、より深く音楽を味わえるように、自分でプログラムを組むことができれば、コンピューターに対する理解や愛着も増していくはずだ。もちろん筆者は「プログラムが組めない者は、コンピューターを使えていないのと同じ」と主張するつもりはない(そもそもプログラムに関しては、いまだにほんの初心者だ)。しかしプログラムの何たるかを「さわり」だけでも知っているかどうかが、そのひとのコンピューターに関するリテラシーの大きな部分を決定づけることもたしかなのである。

 副題に「気軽なプログラミング」とある本書はパソコンの操作に関して基礎的な知識さえあれば誰でも読みこなせるように、プログラミングの何たるかについて初歩的なところから解説している。この解説の判りやすさは保障してもいい。なぜならRubyはおろか、プログラミングそのものがほぼ初体験である筆者でも、難なくついていくことができたからだ。「教科書的」というと悪い意味で使われることが多いが、本書の平明な文体と階層的な構成はいい意味で教科書的。筆者と同じくプログラミング初心者の読者は、興味のある箇所だけを拾い読みするのではなく、最初のページから順を追って丁寧に読み進めていってほしい。またそのときはただ本文を読んで「ふんふん」とうなずくだけではなく、手元にパソコンを用意して文中に紹介されているサンプルソースを実行させてみるのをお薦めしたい。そのほうが理解も深まるし、自分が書いた命令どおりにパソコンが動くのを見るのはけっこう快感だからだ。そしてこの快感を通じて、プログラムが「動く」とはどういうことか、生き生きと実感できるようになるに違いない。
 また本書では各部のトビラに歌人の穂村弘や作家の高橋源一郎など、プログラムの世界とはおよそ無縁そうな書き手の言葉が引用されているのも印象的だ。これを「お遊び」の一種と言ってしまえばそれまでだが、「お遊び」があるおかげで、間口がぐっと広がった印象を受けるのもたしか。さらにRubyとは直接関係のないプログラム全般にかかわるノウハウを、コラムとして細かく拾い上げているのも、本書の入門書としての価値を高めている。
 そしてもちろん初心者に優しいことだけが『たのしいRuby』の特徴ではない。第5章の「ログの解析」や「アンケートの集計」は非常に実用的で、かつ「いますぐにでも使ってみたい」と思わせる魅力的なプログラムになっている。

 Rubyの基礎を学べるだけではなく、「入門書はかくあるべし」というひとつの理想を示した例として、『たのしいRuby』は仕事や趣味でコンピューターにかかわっている多くのひとに読んでもらいたい、高い完成度を示している。

【おまけのひとくち評】
『インターネットホームページデザイン』(鐙聡/家永百合子/吉村信、翔泳社、2330円)

 1995年6月と個人がホームページを持つのが一般的ではない時期に出版されたHTMLの入門書。筆者はほとんどこの本だけでHTMLの基礎をマスターし、いまでもサイト作成時にはこの本を参考にしている。内容がしっかりしている入門書はいつまで経っても役に立つという好例だ。特に凝ったデザインのサイトにするのでなければ、いまでもこれだけで必要にして充分だ。

文:鈴木芳樹(すずき・よしき)
この本を読みはじめたころから、語学のセンスとプログラムのセンスは共通しているという説を唱えているのだが、賛否両論といったところ。主語の人称を変えるだけで、形容詞や動詞や冠詞のかたちまでロジカルに変化するフランス語の文法は、プログラムに近いような感じがするのだが。
WEB:http://www.asahi-net.or.jp/~qy4y-szk/
E-Mail:yoshiki@suzuki.email.ne.jp
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